日本国有鉄道労働運動史【鉄労視点】

日本国有鉄道労働運動史、鉄労視点で綴るblogです

春闘のはじまり 第2話

春闘のはじまり第2話として、今回も引き続き、鉄労の国鉄民主化への道を底本にして、ご覧いただこうと思います。

昭和30年、国鉄にとって大きな変換点

さて、春闘が始まった昭和30年、国鉄を取り巻く環境として、下記の通り二つの大きな出来事がありました。

です、生産性本部はご存じの通り後にマル生運動であり、生産性本部の指導の下、生産性運動が始まったことはご存じの通りです。

なお、十河総裁の就任は、長崎惣之助総裁が紫雲丸の沈没事故を受けて、辞表を提出したことを受けたもので、当初は、運輸大臣三木武夫が「国鉄の刷新と信用回復のため、有力な財界人を起用する」として、元東京銀行頭取の浜口雄彦浜口雄幸の長男)

濱口雄彦 元東京銀行頭取、元全国銀行協会連合会会長

濱口雄彦 元東京銀行頭取、元全国銀行協会連合会会長

に打診するも固辞され、最終的に、三木武吉鳩山一郎国鉄OBでもある、十河信二を推薦。結果的に十河が、「最後のご奉公と思い、線路を枕に討ち死する覚悟で引き受けた」と承諾したそうです。

三木武夫運輸相は、国鉄OBを採用しないと言ったのにということで、マスコミから厳しいところを突かれたと書いています。

二回の沈没事故の責任を負って辞任した、不運の長崎総裁

長崎総裁は桜木町事故の責任を負って辞任した、加賀山総裁の後を受けて、就任したものの、洞爺丸事故、更に紫雲丸事故と2回の重大海難事故に遭遇しています。
ただし、就任中には交流電化の推進や、非電化線区の気動車化等を推進するなど動力近代化等には尽力されています。

国鉄は発足当初から、波乱含みで総裁が任期まで続かないというジンクスがありました。

長崎惣之助総裁 紫雲丸の沈没事故の責任を負って辞任した

長崎惣之助総裁 紫雲丸の沈没事故の責任を負って辞任した

 

十河総裁誕生

十河総裁の誕生は、年齢的にも、就任の時点で71歳と高齢であったこと、(現在以上に、70歳という年齢は高齢であった)こと、さらに、「線路を枕に討ち死する覚悟」と言った談話は、時代錯誤であるとして、マスコミも冷ややかな眼で見ていたそうです。

十河総裁のユニークな視点というか時代を超越していたと思わせるのは、「組合を国鉄経営に参加させよう」と画策したことでした。

当然部内では反対をしたのですが、学者にも意見を聞こうと言うことで、石井照久や、大河内一男と言った学者にも意見を聞いたそうです。

結果としては、参加したとしても経営責任は負えないだろうとして、実現することはありませんでした。

その辺を、「国鉄民主化への道」から引用したいと思います。

十河は「この際、組合を国鉄経営に参加させ、責任の一端を担わせる必要がある。国鉄の最高意思決定機関である理事会に、組合の代表を加えてはどうか」と国鉄の幹部に提案したという。谷は

 この十河さんの余りにも進歩的な着想に、われわれは戸惑った。日本国 有鉄道の建前上認められないなどと抗弁しても、十河さんには通用しな い・・・中略・・・、大河内一男、石井照久等当代一流の学者にお越し をねがって、総裁を囲んで討議してもらった。結論は、組合が経営に対 して発言権を保持する事を希望しても経営の責任を分担する考えは無い だろうというところに落着いた。

 と書かれています。

結果的に、この問題はここで終わりとなりましたが、こうした考えに至った背景には、後藤新平が提唱した、国鉄大家族主義の考え方の則ったものであったようですが、戦後の国鉄の中では、むしろ組合は対立すべき存在となりつつ有り、十河総裁自身も考えを改めていくことになるのが、後述する、昭和32年3月23日に実施された、いわゆる「抜き打ちスト」であり、その流れを受けて、国労分割の元となる、新潟闘争に繋がっていくのでした。

国労内での熾烈な派閥抗争(都区に民同右派と左派)

国労では解雇されても再選されている三名の役員の処遇で揉めていました。

その三名のうち、横山書記長(民同左派)(横山利秋)は2月の総選挙で、愛知一区から出馬、衆議院に転出しており、更に、この度の総評事務局長に、岩井章(当時は国労企画部長)を立候補させることで国労内でも意見の統一がなされていませんでした。

そして、もう一人の解雇者、柴谷委員長(柴谷要)も、翌年の参議院選挙全国区に出馬する意欲を見せていました。

国労の内部でもその辺の葛藤と言いますか意見は分かれていたそうで、柴谷委員長を再選という方向もあるものの、民同右派(労使協調路線派)としては、柴谷委員長を参議院に送りだし、解雇されても再選している役員を排除したい民同右派の思惑も有り、しきりに働きかけたとされています。
この背景には、昭和29年5月12日に、「解雇者が再選の場合は組合を法外組合と認め、団体交渉等に応じないと国労に警告」したにも関わらず、国労が解雇者を役員として再任したことから、国労と当局の対立が激化したことが原因でした。

国労全国大会等開催 5/15

山形県上ノ山で、第十三回全国大会及び第三十六回中央委員会が開催され、29年度の運動方針として、業務方針や党幹部の決定を行った
運動方針は、不当処分の撤回、生活向上の闘争等五項目
国労は当局の警告にも関わらず、解雇された役員を再任したため、組合を法外組合と認め、団体交渉等に応じない事態となった

 国鉄があった時代 昭和29年前半

この昭和30年の国労大会では、革同派(国鉄労働組合革新同志会)が、「不当解雇反対のシンボルである柴谷委員長を再選させる」のが筋ではないかとして下記のような批判をしたと言います。「国鉄民主化の道から」引用したいと思います。

「横山書記長は既に衆議院に出てしまった。更に柴谷委員長を参議院に、岩井企画部長を総評に出すことは、失業対策では無いか。多くの解雇者を国労に残し、最高幹部は逃げていくのですか」という皮肉な演説もあった。

そうですが、これに関しては革同派の細井宗一が内部を抑えたようで、表面上は国労は一枚岩として新役員が選出されることとなった。
その背景には、下記のように国鉄当局が、組合役員の地位に関して、公共企業体労働関係法 第4条第三項による疑義を発したからでした。

すなわち、国鉄職員でないものが国労の役員に就任することは、公共企業体労働関係法から見ても違法で有り、違法状態の組合役員を擁する組合とは交渉なり便宜供与はできないとしたのでした。

 *1

  国鉄当局、被解雇者の組合役員再選を理由に団交拒否 5/27

解雇通告を受けた三役再選は適法と認め難いからその違法な状態を解消しない限り従来通りの労働関係を継続することは出来ないと正式通告
夏期手当問題その他について、国鉄労組から団体交渉の申入れをうけた国鉄当局は、組合幹部との会見に、被解題者を役員とする国鉄労組は法外組合である旨の正式通告を行い、かかる違法状態がつづく限り、団体交渉はもとより、組合に対する諸々の便宜の供与をとりやめることを伝えた

 こうした背景があったことから、国労としてはなんとしても、解雇役員が国労の幹部役員としていることを解消する事が目標でありました。

結局、最終日の7月20日に、国労は新役員として、下記の三名を選出することになりました。

この改選により、新執行部は下記の通りとなりました。

  • 委員長 小柳勇(民同左派、門司)
  • 副委員長 土門幸一(革同派 秋田)
  • 書記長 鈴木清(民同左派、東京)

であり、土門幸一は、解雇処分を受けていたが、再選させることで、民同左派が革同派を説得したそうです。新生民同派は、土門幸一だけは対立候補を立てるものの、民同左派のグループに圧される結果となり、昨年同様民同左派と革同派が支配する国労となりました。

 国労中央委員会役員選出 7/20

委員長に小柳勇、副委員長に土門幸一。書記長に鈴木清の各氏が当選。なお岩井企画部長を総評事務局長候補に推薦を決定した

 国鉄があった時代

国鉄当局でも、解雇処分を受けている土門幸一を役員にしたことについて、当局でも、正常化したか否かで議論があったそうですが、最終的には9月5日には、「努力が認められる」として翌6日、国労に対して、便宜供与復活など制式に団体交渉を行うことを通知しています。

 国労への便宜供与復活を通告 9/6

解雇役員問題に起因した国労を正式の相手としなかった国鉄当局は、方針を変更して、これまでのかたくなな態度を綬和、団交をおこなう事を決定、専従者に対する賃金の支給、組休及び定期組合費の賃金控除等の国労に対する便宜供与を旧にもどすことを組合側に通告

国鉄があった時代

 

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国鉄があった時代 JNR-era
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*1:第四条 職員は、組合を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。但し、管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取扱う者は、組合を結成し、又はこれに加入することができない。

 2 省略

 3 公共企業体の職員でなければ、その公共企業体の職員の組合の組合員又はその役員となることができない。